理研の脳科学総合研究センターのサイエンスカフェの内容

理研の脳科学総合研究センターのサイエンスカフェ
http://www.brain.riken.jp/jp/events/details/1701

これに参加したときの内容。

前半は研究室の紹介や実験内容の紹介。後半はよくある質問として、外国語を勉強するにはどうしたらよいか、子どもには早いうちから外国語を勉強させたほうがよいのか、といった観点の話であった。合間や終わりの方には参加者からの質疑応答もあった。

ITエンジニア向けの勉強会に慣れている私としては参加者がだれもパソコンを開いていないことにびっくりであった。年齢層も圧倒的に高めであった。

以下は先生が話した内容である。その時のメモと記憶を元にあとで書き起こしたものなので、間違った内容もあるかもしれない。


初語は1歳くらいから。1歳までのあいだは言語獲得の準備期間。


BSI言語発達研究チームは、これまで赤ちゃん被験者のべ1万人くらい実験をした。

場所は理研の敷地内でも生物系とは別の情報基盤棟というスパコンのある建物にある。子どもがリラックスして実験を受けられる雰囲気にしたかったためで、生物のwet系のラボみたいな雰囲気にしたくなかった、子どもが間違って関係ない場所に入っちゃっても危険でない建物にしたかった、子どもが構えてしまうような白衣の人たち・アルコール臭などを避けたかった、といった理由で情報基盤棟に研究室を作ってもらった。子どもがリラックスできるコルクの床も用意してもらった。理研の施設課とはだいぶ交渉し、施設課には前代未聞の設備と言われた。


赤ちゃんの脳の動きを調べるには近赤外線分光法を使っている。 MRIはうるさいので赤ちゃんをMRIでまともに実験できるわけがない。 MRIで実験するには赤ちゃんを寝かせるか、うるさくて泣いてしまっている状態なので、赤ちゃんをMRIで実験した論文もたまにあるが、実験結果はまともなわけがない。


マザリーズコーパス: 赤ちゃんに話しかける言葉のコーパス


視覚的馴化脱馴化法: 同じ言葉を繰り返し聞かし続け、あるタイミングで別の言葉に切り替え、赤ちゃんが飽きてるかどうかの度合いがそこで変化するかどうかを見ることで、その言葉を聞き分けられているかどうかを調査する実験手法。


視覚的馴化脱馴化法で、東京弁の雨と飴を聞かせ、アクセントの違いを弁別できるかどうかを調べた。このとき近赤外線分光法も使ってアクセントの違いを脳の右と左のどちらを使って処理しているかも調べた。

言語のアクセントの種類は主に3つ

赤ちゃんがピッチアクセントを区別できるかどうかを、日本語母語の家庭の赤ちゃん生後4ヶ月と10ヶ月に対して視覚的馴化脱馴化法で実験したところ、 4ヶ月、10ヶ月とも弁別できた。近赤外線分光法で見たところ、4ヶ月は左右対称であったが、10ヶ月は左優位になった。

言語野は脳の左半球と言われている。しかし実際には左だけで処理しているわけではない。

日本人はピッチアクセントを左優位に処理するが、日本語以外のアクセントは左右対称に処理する。強勢拍の言語を母語とする人は、強勢拍の外国語も左優位に処理するが、トーンやピッチアクセントの外国語は左右対称に処理する。一般に母語のアクセントは左優位に処理するが、アクセントの種類が母語と違う言語を聞いたときには左右対称に処理する。

ただ、アクセントがトーン同士でも、中国人はタイ語を聞いたときに左右対称になるし、逆もしかり。中国語のトーンアクセントとタイ語のトーンアクセントは、日本人には分からないが違うものらしい。

10ヶ月だと母語のアクセントを左優位に処理するが、 4ヶ月ではまだ母語のアクセントであっても左右対称に処理していることから、 10ヶ月の頃には母語のアクセントの処理に特化してきていることがわる。

このアクセントの実験は、pure tone condition と word condition で行った。 pure tone condition は、雨と飴を発音したときの音の高さを多くの人で調査して、その平均的な音の高さの単一の周波数の電子音にしたもので、純粋な音の高さのみの識別をしているかどうかの実験。 word condition はその単語の実際の音声。

4ヶ月は pure tone と word のどちらも左右対称で、10ヶ月は word condition のみ左優位になった。このことから、アクセントの処理は音の高低だけを見ているのではないことがわかる。

同じ日本語でも東北ではピッチアクセントがないので、東北で育った人は、その後東京に来るなり、メディアに触れるなりして、東京育ちの人とまったく区別できないぐらい自由に東京弁をしゃべれるようになったとしても東京弁のアクセントの処理は左右対称になっている。これは東北と東京で大学生を集めて、東北からも新幹線で和光まで来てもらって実際に実験した結果。東北育ちの人はいくら東京弁を日常的にしゃべっていてもアクセントの処理は外国語の扱いになっている、ということ。


チンパンジーだとかは発音し分けることができないので、アクセント処理もできない。この能力は人間以外の霊長類には見られない。


子どもはだれでも第二言語を覚えることができるが、大人は個人差が大きい。


赤ちゃんの言語発達の実験には同じ月齢のたくさんの赤ちゃんを集める必要があるので大変。世界的には二ヶ国語をしゃべる地域は多いが、同一条件の赤ちゃんを集めるのが大変なので、赤ちゃんの二ヶ国語獲得の実験をできる都市は限られている。例えば、バルセロナ、モントリオール。理研にも外国人は多いが、それでも、今月4ヶ月になるバイリンガル家庭の赤ちゃん20人集められるか、というと、それは無理。


韓国語と日本語は文法そっくりで韓国人が日本語を覚えるのは簡単。しかし日本人が韓国語を覚えるのは難しい。日本語は子音母音が単純すぎるため、区別のできない音が韓国語には多いため。子音母音の少なさは世界的に特異。


兄弟の中では言語発達は上の子のほうが有利だと統計的には示しているが理由は調査できていない。第一子は親が直接コミュニケーションを取る量が多いが、下の子ほどそれが減るからではないか。


音声の聞き分けは、月齢が小さいほど母語に関係なく外国語も弁別できるが、 1歳ぐらいには外国語の弁別ができなくなる。 LとRの弁別ができない日本人は多いが、生後数ヶ月だとほとんどの赤ちゃんが弁別できる。外国語の弁別ができなくなるのは言語獲得に必要なプロセス。言語処理には不要な情報をそぎ落とさないといけないので、不要な情報をフィルタアウトする能力がついたとみなせる。いつまでも外国語の聞き分けができるのはむしろ発達が遅れていることになる。

アメリカで生後9ヶ月の家庭に継続的に中国語ネイティブスピーカーを派遣して赤ちゃんとコミュニケーションした結果、英語の他に中国語の弁別は維持できた。しかしビデオで中国語を継続的に聞かせた子には、まったく効果がなく、中国語の弁別はできなくなった。話し手と自分が同じものに注目してないと赤ちゃんは言葉は学ばない。ビデオがダメということには限らず、夫婦の会話をいくら赤ちゃんが聞いていても言葉を覚えないのと同じ。このことから赤ちゃん向け英語教材は無駄だと断言。


言語獲得にはその言語に1万時間接触している必要がある言われている。本を読む、仕事をするなど、高度な言語処理ができるようになるには、さらに2.5万時間の接触が必要。日本語で社会生活していては外国語学習にそんなに時間はかけられない。

ただし単に言語に接触するのではなく、文法だとかを体系的に学習すればもっと効率よく学べる。しかし赤ちゃんや小さい子が体系的に勉強することはできず、学習に適した年齢はある程度上である。子どもが英語をまったく知らない状況からアメリカに一時的に住んだ場合に、獲得する英語力は3歳よりも12歳の方が圧倒的に上である。

韓国人がアメリカへの移住した年齢とその後の英語の訛りの状況を調べると、移住が5歳位までは訛りがないが、それ以降に移住した人だと移住年齢が遅いほど訛りが消えない傾向にある。とはいえ、先述の学習適齢の問題から外国語の学習は小さいうちからのほうがいい、という結論にはならない。

「仕事に使える英語」と「nativeの英語」は違う。訛りがなくても幼稚園児レベルの会話しかできないnativeスピーカーは仕事に使えない。訛りがあっても「仕事に使える英語」は大人になってからも学習できる。

日本の英語教育の問題は「仕事に使える英語」でないこと。


世界では1カ国語しかしゃべれないモノリンガルは少数派、2カ国語をしゃべる人が多い。


北京語と上海語は別の言語、でも同じ意味に同じ文字を使うから通じやすい。


人間には能力に個人差があって、例えば、スイミングスクールに通っても沈んでしまう人もいれば、オリンピックに行く人もいる。でも言語はだれでも覚えられるようになっている。人間が覚えられない言語は言語自体が衰退してしまうから。

舌をU字型に丸められる人と丸めれない人がいるが、舌をそのようにしないと発音できない音声というのは、世界中どの言語にも存在しない。インドには、日本人にはとてもまねのできそうにない舌の変な丸め方をする発音があるが、その動きも練習すればだれにでもできる。

子どもほど、子どもに必要なレベルには言語はだれでも一定程度で覚えることができる。大人になると必要な学習量は個人差が大きくなってくる。

小さい頃にいくら外国語をしゃべれるようになっても、使ってないと発音すらできなくなる。これも調査結果の論文がある。


日本人にはLとRの聞き分け難しいが、母音の方が難しい。母音は連続しているので。


子どもは言語を覚えるもので、例えば、父子家庭で、父親がほとんど子供の相手をせずに家ではビデオばかり見ていたとしても、子どもは父親にものを要求したりするために言語を覚える。例え単語が偏るとしても。

子どもに言葉を覚えさせないようにするには監禁して虐待するぐらいでないと。
事例: https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B8%E3%83%BC%E3%83%8B%E3%83%BC%5F%28%E9%9A%94%E9%9B%A2%E5%85%90%29

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